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横浜地方裁判所 昭和28年(行モ)8号 決定 1953年9月18日

右当事者間の昭和二十八年(行モ)第八号行政処分執行停止決定申立事件について申立人代理人は、

一、被申立人は申立人に対して昭和二十八年七月三十日附(翌三十一日到着)で「学校施設の確保に関する政令」第四条に基き横浜市磯子区岡村町字腰越一、五一三乃至一、五二〇番地及び同町字古泉三五四乃至三五六番地所在岡村工場敷地、一二五〇坪を、その地上の建物と建物内の工作物機械類一切と共に除却して九月二日迄に返還すべきことを命じた。しかしながら右工場敷地に現存する工場建物とその内部に現在する機械設備、材料、部分品等(申立書添付第六図及び疎明第二三号証参照)を移築移設するためには一定の条件のもとに実施するとしても猶且一百七十日を必要とすること疎明第二五号証に詳細図示説明する通りである。(特別都市計画法第十五条参照)然るに本件命令はこれを三十三日間に実施せよというのであつて、所謂社会通念上不可能を命ずるものであり、この点に於て本件命令は無効である。

二、次に返還命令書には法令の条項を記載しなければならないことは勿論であり、本件命令は前記政令第四条に基く旨記載しているが、ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令は昭和二十七年四月二十八日限り失効しているのであるから、この措置に関する法律を記載しなければ法令を記載したことにはならない。この点に於ても本訴命令は法律所定の要件を欠き無効である。

三、尚右命令は前記政令第四条に基き返還を命じているが、岡村工場敷地が昭和二十四年三月岡村中学校の新設に当つて仮に学校施設に編入されたとしても、申立人はその以前から引続き権限に基いて使用する者であること疎明第九、十、十一、十二号証等によつて明白である、従つて申立人は右政令第五条によつて第四条の適用除外者である、この点に於て本件命令は違法である。

四、本件命令は以上の理由によつて無効且違法であるから、申立人は文部大臣に訴願し且訴願の裁決を経ることにより著しい損害を生ずる虞があるから違法な行政処分の取消を求める訴を御庁に提起した。

しかし違法な行政処分は現在し、放置すれば被申立人は手続を進行する、その結果岡村工場の作業は停止の止むなきに至ること必至である、岡村工場の作業停止ともならば、申立人の本社工場に於ける組立作業は必然に作業不能となり、申立人は茲に破産し、三百四十九名の勤労者は一時に職を失う次第である、其後に至つて申立人の主張が認められて勝訴の判決を得たとしても執行によつて生ずべき損害を償うことはできない、よつて行政事件訴訟特例法第十条二項により本件申立に及ぶ次第である旨申立てた。

仍て按ずるに申立人は右一乃至三を主たる理由として当庁に右命令の効力を争う行政訴訟を提起した。而して右一乃至三の主張が正当なりや否やは専ら右本案訴訟に於て審査を遂げる次第であるが右訴訟の判決確定に至るまで右命令の執行停止を求める申立人の本申立は当裁判所に於て理由あるものと認め主文の通り決定する。

申請人 株式会社岡村製作所

被申請人 横浜市教育委員会

主文

被申立人は昭和二十八年七月三十日申立人に対し発した同日付第一、七〇二号返還命令に基く執行を停止せよ。

(裁判官 堀田繁勝)

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